木を通して見つめる、家づくりの歩み
~プレカットが住宅産業に与えたインパクト~

2025.05.07卸業期 

木を通して見つめる、家づくりの歩み~プレカットが住宅産業に与えたインパクト~

プロローグ

1905年に材木店として創業した桝徳は、以来120年、木と共に地域の暮らしを支える家づくりの現場に携わってきました。時代が移ろう中でも、「人が安心して暮らせる場をつくる」という思いは、桝徳の中で変わらず受け継がれています。一方で、その場をつくるための家づくりの工法や、建材、住宅産業の構造といったまわりの環境は大きく変わってきました。

その中でも特に大きな転換点となったのが、プレカットの普及だと桝徳編集部は考えています。1990年代に急速に普及したプレカットは、木材の流通や住宅の現場を大きく変えました。そして、その変化の中に、今後の課題を見出すことができます。

今回は、プレカットが住宅産業にどのようなインパクトを与えたのか、その歴史と変遷をたどりながら考えていきます。

プレカットが与えたインパクト

大工不足を補ったプレカット

大工不足を補ったプレカット

家づくりと言えば、古くから地域の大工が担ってきた仕事です。飛鳥時代には、聖徳太子が組織した「右官」という呼称が使われ、江戸時代に「大工」という現在の呼称が定着しました。

当時、大工になるためには、12歳前後で弟子入りをし、厳しい修業を積まなければいけませんでした。朝は親方の家の掃除から始まり、飯炊きや風呂炊きなどの雑用をこなしながら修行を続け、一人前の大工になるまでに十数年かかったと言われています。

このような厳しい修業にも関わらず、江戸では、左官や仕事師(鳶職)と並んで、華の三職と呼ばれるほど人気がある職でした。火事が多かったこともあり、需要も高く、給料は一般的な職業の2倍ほどだったと言われています。

大工就業者数の推移
出典:国土交通省資料

そんな花形だった大工ですが、時代が変わり、1980年代には高齢化や若年層の定着率低下により就業者数が減少していきました。国勢調査によると、1980年の大工就業者数は約93万7千人でしたが、2020年には約29万8千人となり、約3分の1に減少しています。そんな深刻な大工不足を補ったのが、プレカットでした。

わずか20年で普及率94%へ

出典:令和元年度 森林・林業白書(令和2年6月16日公表) 第1部 第3章 第3節 木材産業の動向(7)

建築物に使用する木材をあらかじめ工場で切断・加工することを指すプレカット。図面をCADで取り込みCAMに転送すると、転送されたデータの通り、加工機械が自動的に切削・裁断します。加工機械が登場し始めたのは1970年頃ですが、普及したのは1980年代半ばに入ってから。コンピューター制御の自動化ラインが開発され、生産能力と加工精度が大きく向上しました。

1989年には、木材軸組構法におけるプレカット率はわずか7%でしたが、2018年には93%にまで上昇しており、急速に普及したことがわかります。また、一般社団法人全国木造住宅機械プレカット協会プレカットニュースによると、2022年には普及率が94%とわずかではありますが、増加し続けています。

メリットは工期短縮やコスト削減など

墨付けの姿や、ノミ打ちの音――。プレカットの普及により、かつて現場で見られた光景は姿を消し、代わりに機械で自動加工された構造材や合板、集成材が運び込まれ、それらを組み立てる業務が主となりました。

「プレカットは、大工の職を奪うもの」と忌避されることもありましたが、工期の短縮やコストの削減など、得られるメリットは大きなものでした。

【プレカット導入のメリット】

  • 大工不足を補填

    大工が行っていた施工をプレカット工場が代わることで、大工不足の補填に

  • 工期の短縮

    木材加工を手刻みから機械加工に変えることで、工期短縮に

  • コスト削減

    手作業の人件費を削減。効率的な生産ラインが確立し、無駄な建材がでにくく

  • 加工精度の安定

    木材加工を機械が行うことで、加工精度が安定する

  • 住宅品質の安定

    画一的な品質のプレカット材を使用することで、住宅の品質が安定するように

  • 環境負荷の低減

    工場でカットしたものを建築現場に運ぶため、建築現場でのゴミを削減できる

流通構造の変化

プレカットの登場によって、木材の流通構造にも大きな変化が現れました。従来の構造では、

  1. ①川上とされる林業の素材生産者が原木を切り出し、
  2. ②川中の林産業である製材工場が加工を行い、
  3. ③川下の工務店やハウスメーカーに最終生産物である木材が届く

のように、川上(林業:素材生産者)・川中(林産業:製材・加工業者)・川下(実需者:工務店など)それぞれの事業者が次の職域に受け渡しをしていました。

住宅業界を支える流通構造の変化

しかし、プレカットの登場によって、その流通構造に変化が起こりました。川上・川中・川下といった分断されていた職域をつなぐ事業者が出てきたのです。

【職域を兼任する事業者の例】

  1. ①プレカット工場
    木材の加工だけでなく、製品市場や問屋、材木店などの流通業者が行っていた品質管理・在庫管理・流通も担うように。
  2. ②パワービルダー
    プレカット工場を有し、川中・川下の業務を一貫して行う。
  3. ③全てを担う事業者
    原木生産、製材・加工、住宅建築と、川上・川中・川下の業務を一貫して担う

パワービルダーの台頭

流通構造を変化させた大きな要因の1つであるパワービルダーは、低価格な住宅を年間数百棟から数千棟分譲する建築業者です。

コストを抑えて一定の品質の木材を安定供給できるプレカットは、短期間に大量供給を前提としたパワービルダーの成長を支えるものでした。
プレカットが普及した1990年代以降には、パワービルダーも急速にシェアを拡大しています。大規模なパワービルダーは、グループ傘下にプレカット工場を所有することで拡大し、前述のような流通構造に変化を与えたのでした。

パワービルダー上位4社の住宅販売戸数
出典:中小企業家同友会全国協議会 「パワービルダーの台頭と工務店の経営課題(企業環境研究年報No.14, Dec. 2009)」

パワービルダーがシェアを広げる中で、流通だけでなく、「お施主様が直接施工会社に依頼をして家を建てる」という従来の家づくり構造にも影響を与えました。
多くのパワービルダーは、自社社員として現場の施工者を確保せず、協力業者として一人親方など外部に委託していたためです。

当時、木材卸売業から建材小売業へとシフトしていた桝徳も、パワービルダーの皆様とお取引があり、商材の納品だけでなく施工者の手配なども行っていました。パワービルダーのシェア拡大期だったこともあり、多くの受注をいただき、朝から晩まで商材の配達を続けるような忙しさ。しかし、売り上げが伸びても利益は伸び悩み、会社のあり方を模索していました。また、お付き合いのある工務店様の中にも、家づくりや流通の構造が変わる中で、どのような経営のあり方がよいのかを模索される方が多くいらっしゃったように思います。

住宅産業に残る課題と大工技術の継承

林業従事者数と高齢化率の推移
出典:響 hibi-ki HP

大工不足を補う側面もあるプレカットでしたが、大工の高齢化と担い手不足は今も解消されていません。また、こうした人手不足の問題は、大工に限らず、林業や建設・住宅業界全体に共通する課題となっています。

特に林業の人手不足は深刻で、安価な輸入木材への依存により国産材価格が低下し、生産しても採算の取れない経営構造もあり、林業のみで解決できる問題ではなくなっています。間伐不足や過密林による山林の荒廃、未利用のままの伐期齢の人工林といった課題も解消されていません。

工期の短縮やコスト削減といった多くのメリットをもたらしたプレカットですが、その一方で、伝統的な大工技術の継承が難しくなるという課題も生まれています。

現場から大工の手仕事が消えつつあるなか、伝統技術を次の世代につなぐ取り組みを行う団体や大学などもあります。
その1つである埼玉県行田市にある学校法人ものつくり大学の建設学科木造建築コースでは、社寺建築伝統様式や伝統構法、そして最先端の現代木造建築技術を学ぶことができます。

ものつくり大学×桝徳コラボプロジェクト

実は、ものつくり大学の建設学科・戸田研究室の皆様と桝徳は、「L-innovation Project」というコラボプロジェクトを企画したことがあります。プロジェクトは、桝徳の伊奈町にある配送センター内の倉庫を、地域の人々に活用してもらえるように、木質化していただくというもの。スチール製の机の天板に無垢材を取り付けたり、事務所内やイベントで使用できる木製のパーテーションを制作していただき、木の温かみを感じるスペースへと変えていただきました。

また、家づくりネットワークの会員工務店様の中には、インターン生としてものつくり大学の学生を受け入れたり、卒業生が工務店様に就職するなどして、技術が継承される場にもなっています。

さいたま家づくりネットワークの設立

川上から川下まで、広くつながるネットワークへ

設立のきっかけは、地域型住宅ブランド化事業と、その後継事業である地域型住宅グリーン化事業でした。どちらも地域材を使用し、地域の中小工務店が連携して、良質で環境負荷の低い木造住宅をつくることを目的としており、先述した住宅産業全体が抱える課題の解決や、環境問題への対策につながっています。

同じ目的のもと、原木事業者・製材事業者・木材建材流通業者・プレカット加工業者・工務店・設計事務所といった川上から川下までの事業者が連携体制を築き、互いに交流できる場となっています。

連携することで、一社では抱えきれない課題を解決することができるようになり、結果として家づくりを取り巻く産業の底上げになります。

良質な家は、建てるだけでなく、適切に維持・管理していくことが必要です。そのためには、工務店の皆様をはじめ、林業・林産業・メーカーなど、さまざまな職種の方たちとの連携が欠かせません。

さいたま家づくりネットワークは、工務店の皆様同士はもちろん、メーカーや素材を産出する林業関係者の方々など、さまざまな立場の方たちと情報交換できる場でもあります。
1つの事業者・職域では解決できないことや社会の課題や需要をネットワークでつなぐことで、解決に向けて取り組みを加速しています。そして桝徳は、皆様のお役に立てるよう、さいたま家づくりネットワークの事務局として全力でサポートしております。

さいたま家づくりネットワーク

地域の家づくり情報の窓口として、住宅政策、補助制度、法規、認定、工法等に関する情報をいち早く入手し、研究と分かりやすい広報、普及活動を行っています。
会員の知識・管理能力・企画力・営業力・経営能力向上のため、さまざまな勉強会を開催したり、情報交換を行う場となっています。

さいたま家づくりネットワーク

エピローグ

桝徳は、120年という歩みの中で、変わらぬ思いと変わりゆく時代を見つめてきました。
時代が移ろう中でも、家づくりの本質、人が安心して暮らせる場をつくるという思いは、決して変わることはありません。

プレカットという技術革新もまた、時代の流れの中で生まれた大きな転換点でした。そこには効率化の恩恵だけでなく、失われつつある技術や地域とのつながりといった課題も見出すことができます。

私たちは地域とともに、変化を恐れず、変わらぬ本質を見失わずに歩み続けてまいります。